技術コラム
2025/11/12
その他
「CO2を出さない」じゃなく「CO2から作る」燃料──GRカートに見る、もう一つの未来
「世界のトヨタのカーボンニュートラル燃料で走るGRカートが展示される」
そんなニュースが流れたとき、弊社の工場では再びざわめきが起きました。なぜなら、水素カートに続き、このカーボンニュートラル燃料GRカート用の外装の金型も、弊社が作成していたからです。
同じ金型から生まれたパーツが、水素とカーボンニュートラル燃料という2つの未来技術を支えている──この事実に、改めて日本のものづくりの可能性を感じずにはいられません。
今回は、この「カーボンニュートラル燃料」という、少し聞き慣れない技術について、そしてトヨタがなぜこの技術に挑戦しているのかをご紹介します。

>>GRカート用カーボンニュートラル燃料タンク金型 | 製品事例 | 特殊ブロー金型 設計・製作.com
>>常識を打ち破る!カーボンニュートラル燃料(水素)GRカートの外装 | 製品事例 | 特殊ブロー金型 設計・製作.com
>>常識を打ち破る!カーボンニュートラル燃料(水素)GRカートの外装を実現した特殊ブロー金型 | 製品事例 | 特殊ブロー金型 設計・製作.com
カーボンニュートラル燃料って、何がすごいの?
「カーボンニュートラル燃料」と聞いて、どんなイメージを持たれるでしょうか。
「環境に優しい燃料?」「電気自動車みたいなもの?」
実は、この燃料、従来のガソリンエンジンがそのまま使えるという、驚きの特徴を持っています。
簡単に言うと、こういうこと
カーボンニュートラル燃料とは、「大気中のCO2を増やさない燃料」のことです。
「え、燃やしたらCO2が出るんじゃないの?」と思われるかもしれません。その通りです。燃やせばCO2は出ます。
しかし、この燃料の凄いところは、
「工場や発電所から出たCO2を回収して、それを原料にして燃料を作る」という点にあります。
つまり、こんな循環が生まれるのです。
- 工場や発電所からCO2が出る
- そのCO2を回収して、水素と合成して燃料を作る
- その燃料を車で使うとCO2が出る
- でも、それは元々大気中にあったCO2だから、プラスマイナスゼロ
すでに排出されたCO2を再利用する──これが、カーボンニュートラル燃料の核心です。

なぜ今、カーボンニュートラル燃料なのか?
世界中で電気自動車が注目される中、なぜトヨタはカーボンニュートラル燃料にも力を入れているのでしょうか。
理由1:すでにあるインフラがそのまま使える
カーボンニュートラル燃料の最大の強みは、既存のガソリンスタンドやエンジンがそのまま使えることです。
電気自動車の普及には、充電ステーションの整備や電力インフラの強化が必要です。しかし、カーボンニュートラル燃料なら、現在のガソリンスタンドで給油でき、今走っている車にもそのまま使用できる可能性があります。
つまり、**「脱炭素化への移行を、より現実的なスピードで進められる」**のです。

理由2:世界中の多様なニーズに応える
前回の水素カートのコラムでもご紹介した「マルチパスウェイ戦略」。トヨタは、世界中のあらゆる地域、あらゆる用途に対応するため、複数の選択肢を用意しています。
- 電力インフラが整っている都市部 → 電気自動車
- 長距離・重量物輸送 → 水素
- 既存インフラを活用したい地域 → カーボンニュートラル燃料
この柔軟性こそが、トヨタの考える「本当の持続可能性」なのです。

理由3:「子どもたちの未来」への投資
トヨタがGRカートを開発した背景には、「将来の種まき」という明確な意図があります。
レーシングカートの競技人口は、1995年の最盛期から約半減しています。その理由の一つが、欧州製カートの高価格(約150万円)でした。
トヨタは、価格を約4分の1に抑えることで、より多くの子どもたちがモータースポーツに触れられる環境を作ろうとしています。そして、カーボンニュートラル燃料を使用することで、「環境に配慮したモータースポーツ」という新しい価値観も同時に伝えようとしているのです。

カーボンニュートラル燃料の3つのメリット
では、具体的にどんなメリットがあるのでしょうか。
1. CO2排出量を実質ゼロにできる
繰り返しになりますが、カーボンニュートラル燃料の最大のメリットは、大気中のCO2を増やさないことです。
工場や発電所から出る「どうせ出てしまうCO2」を回収して燃料にすることで、無駄なく資源を活用できます。将来的には、さらに進化した製造方法により、完全にクリーンな燃料になる可能性も期待されています。

2. エネルギー自給率の向上
日本のエネルギー自給率は、わずか約12%です。石油のほとんどを輸入に頼っている現状があります。
カーボンニュートラル燃料を国内で製造できれば、エネルギー自給率の向上につながります。太陽光や風力などの再生可能エネルギーと組み合わせることで、石油依存からの脱却が現実味を帯びてきます。

3. 高いエネルギー密度
CO2と水素を合成したカーボンニュートラル燃料は、化石燃料に匹敵するほどエネルギー密度が高いとされています。
つまり、優れたパワーを発揮できるのです。レーシングカートのような高性能が求められる用途でも、十分に活用できる性能を持っています。

弊社の技術が支えるGRカートの燃料タンク
ここで、発表されたGRカートには弊社が製作したGRカート燃料タンク金型についてご紹介させてください。
複雑形状への挑戦
GRカート用の燃料タンクは、単なる容器ではありません。
- 複雑な3次元形状
- 燃料残量メモリの彫刻
- 複数のネジ部の配置
これらの要求を満たすため、通常のブロー金型では離型が困難な構造でした。
ブロー金型専門の知見を活かした解決策
弊社では、長年培ったブロー金型製作の専門技術を駆使し、以下の工夫を施しました。
1. 特殊な型割配置 ネジ部分の離型方向へのアンダー(引っ掛かり)を回避しつつ、その他のアンダー部分はスライド構造で処理する、特殊な型割配置を採用しました。
2. 独自のスライド構造 単にスライドさせるだけでなく、樹脂の張り付きや、スライド時の引っ張りによる製品変形を防ぐため、ブロー金型専門のノウハウに基づいた独自対策をスライド機構に組み込みました。これにより、製品を傷つけることなく確実かつスムーズに離型する構造を確立しています。
3. 緻密な熱・ガス管理 複雑なスライド機構や、燃料残量のメモリ(彫刻)部分での成形不良を回避するため、ガス抜き穴と水冷ライン(冷却回路)を緻密に配置しました。
これらの技術により、複雑形状を高い精度で安定的に成形できる金型を実現し、カーボンニュートラル燃料で走るGRカートという先進的なプロジェクトに貢献することができました。
まとめ:多様な選択肢が未来を拓く
カーボンニュートラル燃料は、「CO2を出さない」のではなく、「CO2から作る」という発想の転換です。
すでに排出されてしまったCO2を資源として捉え、再び燃料に変える──この循環型のアプローチは、脱炭素社会への現実的な道筋の一つといえます。
弊社が水素カート用パーツの金型と、カーボンニュートラル燃料カート用パーツの金型、両方を手がけたことは、まさにトヨタの「マルチパスウェイ戦略」を象徴しているように感じます。
未来は、一つの技術だけで作られるものではありません。水素も、カーボンニュートラル燃料も、電気も、それぞれの長所を活かしながら、地域や用途に応じて使い分けていく──その柔軟な姿勢こそが、本当の意味で持続可能な社会につながるのではないでしょうか。
弊社は、これからも特殊ブロー金型の設計・製作において、こうした先進的なプロジェクトを支える高度な技術ソリューションを提供してまいります。お客様の挑戦を、確かな技術で支えること──それが、弊社の使命です。
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当社の得意とする3次元ブロー成形金型では、金型とパリソンを相対的に移動させることでバリを最小限に抑えることができ、またインサート部品を事前にセットすることができるため部品の一体化を実現することができます。
このような難易度の高いブロー成形金型の設計を数多く行ってきた経験を活かして、現在はダクトやウォッシャータンク、薬剤タンク等のブロー成形金型の設計から製作についても、様々なお客様よりご相談をいただいております。

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